ファッション全般  2019-07-05

誰がアパレルの未来を作るのか – 「2030年アパレルの未来」書評

「アパレルは斜陽産業」

これは僕が新卒で入社した企業内で2006年から言われていた事である。

国内アパレル小売市場、リーマンショック後初の前年比プラス推移【矢野経済研究所 調査】

 

グラフを見てもそれは明らかで、当時は10兆円を超えていた市場規模が現在では9兆円ちょっと。1990年代のピーク時には15兆円あったというのだから、どれだけ落ち込んだかがよくわかる。専門学校の講師などしていると、学生さんのご両親とお話する機会も少なくないが、やはり皆様一様に「業界は大丈夫でしょうか?」や「待遇面が良くないのでは?」とご心配される事多数。

 

「そんな業界にどのような未来があるのか?」

 

そういった疑問を持つ方もたくさんいらっしゃるだろう。

先日、東洋経済新報社様から1冊の本をご恵贈頂いたのだが、その問いに対する解が記載されていたのでご紹介したいと思う。

 

2030年アパレルの未来―日本企業が半分になる日

 

 

○国内の二極化はまだまだ進む

本書ではまず前提として下記が挙げられている。

 

・世界で見るとアパレルは成長産業
・一方で日本の市場規模の縮小は進む
・国内市場の二極化

 

アパレルは国内の市場規模が縮小する一方、海外に目を向けると成長産業である。世界のアパレル市場規模は右肩上がりであり、アメリカ・中国だけでも60兆円の規模、その他アジア、アフリカでも市場は伸び続けている。世界の消費人口を考えると当然と言えば当然だ。海外進出に成功していると言える企業が少ないという問題はあるが、日系企業でもユニクロや無印のようにグローバルに展開している企業は業績を伸ばし続けている。

 

しかし、国内に目を向けると日本の特殊な人口の構成比を考えた時、市場は確実に縮小していく。その上で、「ラグジュアリー」と「マスボリューム」への二極化はまだまだ進むと予測。

 

業界再編が活性化の鍵

 

(二極化については僕も以前に少し書いた事があるので参考までに。)

確かにアパレル国内ブランドのトップ10を10数年前と比較しても、現在の方が合計金額が大きく肥大化している。つまり寡占化は進んでおり、徐々に二極化は進行していっている。

ヨーロッパのメインストリートを歩いていても、目立つのはグローバルSPAが展開する店舗ばかり。百貨店はその対極で、デザイナーズブランド中心。日本のように中価格帯ブランドが百貨店や路面店にこれだけある状況というのも世界で見ると珍しいのではないか。それが二極化に向かうというのは、今の時代の適正なのかもしれない。

しかしこのように二極化が進む中、大手ができない事に挑戦し、独自の経済圏を築いている事業者も存在する。

 

 

○解決方法はファッションテック?

まずその1つが、デジタルをうまく駆使して拡大している事業者だ。

業界ではまるで、ファッションテックが今抱えている問題点を全て解決してくれると思っているような風潮がある。例えば「商品開発」や「ブランディング」に課題を持っている企業までもがそんな風に捉えているのか、「いや、今そこじゃないでしょ」と突っ込みたくなるような投資をしていたりするのも珍しくない。

 

本書ではそんなテクノロジーを礼賛する内容なのかと思っていたが、全く違う。テクノロジーは使いようだと繰り返し述べられている。ファッションテック自体が需要を創出する訳ではない事を前提に、成功している企業はどういう部分でテクノロジーを導入しているかが解説されている。わかりやすい事例で言うと、画像解析によって今のトレンドとなるスタイルをAIが集めてきて、最終的にはそれを人が選ぶといったフローだ。AIが得意な事、まだ人にしかできない事を上手く使い分けた好例と言える。

本書を読むだけでファッションテックを活用した業界のトップランナーの状況が把握できるので、それだけでも一読の価値がある。

 

 

○ファッションブランドに独自性は必要か?

1点ちょっと気になったのが、本書ではしきりに「独自性」というワードが強調されていた点だ。しかし、昨今の市場を俯瞰して見ていると、必ずしも製品に独自性が必要とは感じない。特にD2C系のブランドによく見られるのは、

 

・インフルエンサーのフィルターを通して発信されたもの

 

であって、製品自体は韓国の卸市場で仕入れてきたと思われる安価な商材が並んでいる事もある。しかし、そこにインフルエンサーの色が付いてしまうだけで消費者からすると独自の商品に見えているのではないか。つまり、情報の切り取り方に独自性はあっても製品として独自性があるとは思えないのだ。

 

特定の課題解決を目指してコンセプトメイクされたもの(feastCOHINAなどのような)も市場には存在するが、こちらも同様に、重要なのは情報の切り口ではないだろうか。

 

 

○独自のコミュニティを形成できるもの

このような小規模事業者の成功要因として、上記のような「情報の切り口」が挙げられる。しかし、そのような情報の切り取り方にプラスして成功要因がある。それはその中心にいる人間の熱量の問題だ。

 

hazamaはどうやってソーシャルで売上を伸ばしたのか?

 

インフルエンサーブランドの成否を分けるのは、本人の「のめり込み方」なのかもしれない

 

当事者の熱量がブランドを成功へと導く

昨年から、様々なブランドを取材させてもらう機会が増えたのだが、共通して言えるのが、コミュニティを作り上げるほどの「当事者の熱量」だ。僕自身が実際に取材に行った「hazama」や「Ameri VINTAGE」「COEL」で感じたのもその部分になる。

 

Ameri VINTAGEに関しては、Twitter上で製品デザインの模倣が問題視されていた事もあるが、コミュニティを形成してしまえば中の人たちからしたらそんなものは大した問題にならない。ロイヤリティが高まれば情報収集の優先順位などあっさり変わってしまうからだ。

 

・情報の切り口
・当事者の熱量

 

この2点こそが独自性の正体なのではないだろうか。そして後者に関しては唯一無二であり、模倣が不可能だ。だからこそブランドとして成立しているように思える。つまり「人」がブランドを形成しているのだ。

 

 

○成功要因は優れたスキームや技術だけではない

本書を通して最終的に感じたのは、アパレルの未来を作り上げていくのは「人」でしかないという事。そしてその「人」を育てる事こそが、最後に記載されている「ファッション教育」に他ならない。

 

ビジネスインフルエンサーや業界のスタープレイヤーたちは教育について懐疑的だ。確かに自助努力できる優秀な人材に関して、教育は必要無いのかもしれない。ではそれで業界自体が活性化するのか?と言われれば、答えはNoだ。

 

教育の本質は「底上げ」にあって、スタープレイヤーを生み出す事ではない。産業別で給与水準が低いアパレルは、他業界から優秀な人材を引っ張ってくるのが難しい。であれば今いる人材を教育する事こそが、業界活性化に繋がるのではないか。「アパレルの未来」と題した本書が、最後にファッション教育について言及しているのは非常に興味深いし、嬉しい反面、少し意外な気もした。ファッション教育は、僕自身が起業してから常に発信し続けていた事でもあるのだが、業界では驚くほど興味を持っている人間が少ないからだ。そして悲観論ばかりが蔓延るアパレル業界において、教育が「アパレルの未来」を築いていくと今も愚直に信じ続けている。本書は、そんな現場にいる人間に勇気を与える一冊になるのではないだろうか。

 

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深地 雅也
WRITER

株式会社StylePicks CEO。ECサイト構築・運用・コンサルティング、リテールのソリューション事業を中心に活動。並行してファッション専門学校の講師も務める。 繊研新聞にてEC関連記事連載中。→ https://senken.co.jp/posts/fukaji01

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