ブランド・ビジネス  2019-09-09

洋服の価値はわかりにくい

2週間ほど前に某ウェブメディアからの依頼で原稿を送ったのですが、その後何の返事もないので、お蔵入りになったのだろうと思います。

せっかく書いたのにお蔵入りはもったいないので、こちらで紹介したいと思います。

 

その某メディアからの依頼内容というのは「ユニクロとジーユーの商品の比較をしてほしい」というものでした。

これが「ユニクロの〇〇とジーユーの××を比較してほしい」という内容でしたら、メディアの期待通りに「ユニクロの〇〇はジーユーの××よりここが優れている」と書けるのですが、あまりにも漠然とした比較なので、そういう内容を書くことはできませんでした。小銭欲しさに自身の考え方を曲げて、読者をミスリードするような原稿を書きたいとは思いませんしね。

 

で、この漠然とした依頼を受けた際、改めて「衣料品の品質の良し悪しってわかりにくいよなあ」と痛感しました。

 

日々業界で働いておられる皆さんはどうでしょうか?衣料品の品質の良し悪しを誰が聞いても納得できるほど論理的に説明できるでしょうか。

 

パソコンや自動車、家電製品、工業機械などいわゆる機械類なら誰が聞いてもわかるように説明することはそこまで難しくありません。

値段の高低にほぼ準ずるかたちで、性能の高低が決まっています。高い商品はだいたい高性能です。

また、宝石や貴金属も価値の判断基準は一様です。

 

しかし、衣料品やそれを構成する生地は異なります。

希少性があって繊細な生地は基本的に高品質で高価格だとされていますが、だからといって、すべての用途にその生地が適しているとは限りません。

スーツを例に考えてみましょう。

細番手ウールで織られたイタリア製の生地を使ったメンズスーツは高級品です。理由の一つとして生地そのものが高いということが挙げられます。

しかし、細番手ウールは繊細ゆえに、耐久性に著しく欠けます。

 

以前、某大手生地問屋の企画課長がこんなことを話してくださいました。

この企画課長は職業柄すごくファッショナブルです。ファッションセンスはなかなかのものがありました。

 

「ぼくは若い頃に、会社からもらったボーナスで、奮発してイタリアブランドの30万円くらいするスーツを買ったんだよ。貧乏人だから、うれしくて3日間くらい連続でそのスーツを着て出社したら、3日目に、袖口が擦り切れててショックを受けたよ」

 

というエピソードです。

で、続けて

 

「本当はさ、そういう高級スーツというのは、一日着たら最低でも次の日は着ずに休憩させておかないと傷むんだよ。毎日着るような物じゃないんだよね。高級スーツというのは本来はお金持ちが着る服で、本来のお金持ちはそういうスーツを1週間分持っていて、毎日違うスーツを着るんだよ。毎日着たかったら、ポリエステルがたくさん入った安いスーツの方がよほど丈夫にできているよ」

 

と話されました。

 

衣料品を巡る誤解の一つに「高かったのにぜんぜん丈夫じゃなかった、長持ちしなかった」というものがありますが、綿や麻、ウール、シルク、カシミヤなどの天然繊維では高級な生地になればなるほど、細くて繊細な糸で織られています。繊細な糸は美しいですが、脆いもので、脆い糸で織られた生地は当然脆くなります。

ですから、これらの高級天然繊維で織られたり編まれたりした生地は高いのに脆いということになります。

丈夫な服が欲しければ、イオンや西友の1万円くらいのスーツを買えば良いのです。30万円のウールのスーツよりよほど丈夫にできています。

 

しかし、衣料品の価値判断が難しいのはこれだけではありません。

用途やアイテムによって「高品質」とされる基準は異なるのです。

スーツとは対極の判断基準がある衣服としてはジーンズがあります。

最近はデニム生地のトレンドも変わってきましたが、トレンドからは外れたものの今でも依然として、分厚くて表面に凹凸感のあるビンテージ風デニム生地は、デニム生地の中では高品質とされています。

繊細な細番手の糸で織られたデニム生地なんて、よほどのことがない限りは、だれも求めていませんし、それが高品質だとは評価されません。

 

デニム生地とスーツ生地では「高品質」とされる基準が正反対なのです。

そして、この異なる判断基準というのはあらゆる衣服に対しても存在します。

 

細番手の糸で編んだ光沢があって滑らかでしなやかな薄手編地で作られたTシャツは高額品で高品質だとされますが、その一方で、8オンスを遥かに越えるような厚手編地で作られたTシャツもまた高品質で高額品なのです。

また、同じTシャツでも冷暖房完備の部屋で活動し、その行き来さえも自動車で移動して、外を歩かないという生活スタイルなら、薄手のツルツルピカピカした高級Tシャツを求められるでしょう。

しかし、一方で、外を歩いて移動し、暑さ寒さの影響をもろに受ける人からするとそんな薄手のTシャツはいくら高級でも普段には着られないから不要なのです。

あまり分厚すぎても不便ですが、6~8オンス程度の分厚めのTシャツの方が必要とされます。

 

また、アメカジ好きやビンテージ系ファッション好きには厚手生地のTシャツは好まれますが、モード好きからすればいくら高品質だろうと厚手Tシャツは不要でしょう。

逆もしかりで、いくら高額でもテロテロピカピカの薄手Tシャツはアメカジ好きには不要です。

 

衣料品や生地の価値基準というのはこれほどに複雑でケースバイケースであることが多いため、ド素人にはわかりにくいのです。

洋服が売れない・売りにくいという原因の一つだと考えられます。

 

業界で働く人々は消費者に対してどう説明すれば理解されやすいのかをもう一度改めて考えなおす必要があるのではないでしょうか。

 

 

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南充浩
WRITER

1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間15万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシャルブログ

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1970年生まれ。大学卒業後、量販店系衣料品販売チェーン店に入社、97年に繊維業界新聞記者となる。2003年退職後、Tシャツアパレルメーカーの広報、雑誌編集、大型展示会主催会社の営業、ファッション専門学校の広報を経て独立。現在、フリーランスの繊維業界ライター、広報アドバイザーなどを務める。 2010年秋から開始した「繊維業界ブログ」は現在、月間15万PVを集めるまでに読者数が増えた。2010年12月から産地生地販売会「テキスタイル・マルシェ」主催事務局。 日経ビジネスオンライン、東洋経済別冊、週刊エコノミスト、WWD、Senken-h(繊研新聞アッシュ)、モノ批評雑誌月刊monoqlo、などに寄稿 【オフィシャルブログ

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